『エスキモーに氷を売る』

エスキモーに氷を売る本の題名だけは聞いたことあるんですが、なんとなく買って読みました。すでに古典的名著みたいですが、ビジネスの一線にいる人には「読むべし」な一冊でした。「エスキモーに氷を売る」っていうのはあくまで比喩的な話で、何ページ読んでもエスキモーの人は出てきませんのでご注意を。

タイトルだけ見ると凄腕セールスマンの口説きテクニック満載、みたいな印象ですが、内容はそんな無理矢理な話ではなく、非常にまっとうなマーケティングの本です。

訳文も読みやすく、非常によくまとまってます。まずこの一言が気に入りました。

  • 自社の製品が、われわれを救うことはない

どうです? 販売をやったことがある人なら、自社の製品・サービスに対して「もっといい商品作れよ」、マーケティングの人なら「こんなもん売れるわけないだろ」というような言葉を口にしたことが一度はあるでしょ? 先日紹介したスコット・アダムズ『ディルバートの法則』の「有能な社員と優秀な製品を有する企業は通常成功する」がここに効いてくるわけです。

スコット・アダムズはクリエイターなので「だから社員にできるだけ有能でいられるようにしよう(無能な時間を少なくしよう)」という話に進んでいくわけですが、ジョン・スポールストラさんはマーケティングの人なので「ほんとうに優秀な製品なら勝手に売れていくはずだから、われわれの手元になどあるはずがない。そうでない製品を売るのがわれわれの仕事だ」という流れになるわけです。

著者にとっての「そうでない製品」はNBAの弱小チーム。成績の低迷が続くチームのチケット売り上げを「ジャンプ・スタート・マーケティング」と称する数々の施策で一気に好転させたといいます。

「ジャンプ・スタート・マーケティング」のポイントは以下のようなもの。

  • 顧客が買いたがる製品だけを売る
  • 同じ顧客にすこしだけ多く売る

考え方としてはCRM(顧客との長期的な関係を重視したマーケティング)そのものです。シーズンチケットの購入者(企業)から、選手にファンレターを送ってきた子ども(とその親)まで、一度でも自分のチームに興味を示してくれた人を相手にした関係づくりをすすめ、人気チケットのパッケージを売るわけです。対戦チームが有名チームだと売れ行きがいいらしく(日本のプロ野球で巨人戦チケットが喜ばれるみたいなもんですね)、試合によってはチケット完売するまでの人気になったとか。

決して無理な売り込みはせず、場合によってはそれまでより低いグレードの商品を売ることもする。客の無理な要求にも応えて、トラブルを解決してあげる。無理に売ってあとで恨まれるより、感謝されて長期的なファンになってもらった方がいい。客引き宣伝で無理に売りつけるのではなく、正直にコミュニケーションして、信頼して、納得して買ってもらう。

ほかにも、「購入頻度を調べて、少し早めに売り込みをかける」とか「安売りをするよりおまけをつけたほうがいい」「少額だが目のつくお金をクレージーなアイディアに使う」とか、顧客との関係を有効活用するための基本的な技がいくつも出てきますので、興味のある方はぜひ買って読んでください。

個人的に印象に残ったハウツーの1つめはこれ。

  • マーケティングの効果は投入した金額に対する収入で測る

これ、マーケティングの中の人ならけっこうキツイ話だってことはわかりますよね?

たとえばダイレクトメールを出す、とか広告を出す、といった施策に対して「反応率は何パーセントでした」「CMを出した番組の視聴率は何パーセントでした」「問い合わせ件数は何件でした」というパーセントや回数の話ではなく、「いくら利益が増えました」という形で評価されるってことです。ましてや「会社ブランドイメージの向上に寄与しました」なんてよくわからない報告をしたらぶっ飛ばされる、ということです。

最終的にはビジネスの成否で判断される、という当たり前の話なんですが、マーケティング部とか宣伝部とかいうセクションの中では「施策そのものへの反応が良かったからOK」となりがちですよね。そうではなくて、CMの評判が良くても利益に直結していなきゃ意味がないだろ、というところに、この著者のスピード感覚(アメリカの短期的評価感覚)と自信(実績)を感じますね。

2つめはこれ。

  • 顧客企業の担当者に年次報告書を出す

自分の売った商品・サービスを買ってくれた人にはもちろん誰でも感謝するでしょうけれど、相手の社内(家庭内)で、その買い物の判断を下した人(買った人)は感謝されるのか、という話です。

著者の場合、チームのスポンサーになってくれた企業の担当者に、そのスポンサーシップがどういう効果を上げたかを示す資料を作ったそうです。スポンサーシップで広告効果を上げるように努力するのはあたりまえで、それだけではなく、その結果を誰が見てもわかるような形にしてあげる。この資料を顧客企業の担当者にわたすことで、その担当者は自分の上司に対して「自分は正しい判断をしている」ということがアピールできるし、同時にサービス提供側(著者側)がいかにいい仕事をしているかのアピールにもなる。よって次の年も契約してもらえる可能性が高くなる。

ビジネス上の話だけではなく、たとえばクルマとか家具など、ある程度の金額の買い物も、「ホントにこれでいいんだろうか」と悩みながら買うものですから、「あなたの選択は正しい」と後から教えてくれるものがあるとありがたいですよね。たとえば10年間モデルチェンジしないとか、統計とか実験結果で優秀性が証明されるとか。「ブランド」なんていうのも、「いい仕事をしている」ということの評判の蓄積ですから、購入の後押しとして非常に強力です。

さて、法人相手であれ、コンシューマ相手であれ、あなたは自分の仕事をブランド化していますか?

エスキモーに氷を売る
『エスキモーに氷を売る – 魅力のない商品を、いかにセールスするか – 』
ジョン・スポールストラ著
中道暁子訳


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